ROEデュポン分解
式としきい値
判定に使っている式と数字を、隠さず全部置いてあります。
A. 外の世界で通っている線・式
このツールが決めたものではなく、外に出典があるものです。
ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ。1919年にDuPont社で使われはじめた分解で、約分すると必ず一致します。「◯◯を超えたら危ない」という線ではありません。
伊藤レポート(2014年・経済産業省「持続的成長への競争力とインセンティブ」)が、日本企業が最低限超えるべき資本コストの目安として示した水準です。このツールでは、ROEがこの線にすら届いていないかどうかを表示に使っています。判定の点数には使っていません。
(ROE − ROA) ÷ ROE を約分すると 1 − 自己資本比率 になります。このツールの見立てではなく算数の結果です。
B. このツールが置いただけの線
ここから下は、外に出典があるわけではありません。 日本の上場企業のおおまかな分布を見て置いた線で、「この数字を超えたら危ない」ということが証明されているわけではありません。業種や事業モデルが違えば、同じ数字の意味は変わります。
これ未満のときは、そもそも「その高ROEは本物か」を問う場面ではないので、総合判定を出しません(分解そのものは出します)。
以上で問題なし、未満で強い注意。あいだは気になる。
以上で問題なし、未満で強い注意。日本の上場企業の平均は4〜5%程度です。
以上で気になる / 強い注意。対数変化の絶対値で3要素に割り振ります。
超で気になる / 以上で強い注意。法人税を引くので通常は0.7前後です。0.5 未満のときは、純利益が本業より大きく目減りしている(=ROEはむしろ低めに出る)ので、危険信号にはあたりません。
未満なら、レバレッジの中身が借金ではなく事業上の負債(買掛金・前受金など)が中心と読み、レバレッジの判定を1段下げます。
この3つを掛けると ROE 8.5% になります。「ふつうの会社」の姿としてこのツールが置いたもので、業種平均でも公式な基準でもありません。
重みつき点数(0〜100)。以上でレバレッジ依存の疑い / 見せかけの疑いが強い。この点数は%でも確率でもありません。
4つの軸と重み
重みは合計10。判定できなかった軸は分母からも外します。
そのROEは、自己資本が薄いことで大きく見えているだけではないか
借入を使わずに、資産をどれだけ利益に変えられているか
ROEが上がったのは利益が増えたからか、それとも自己資本が薄くなったからか
ROEの分子である当期純利益は、本業の利益とかけ離れていないか
業種による格下げ
判定は消しません。1段下げて、下げた理由を画面に出します。
一般(下のどれにも当てはまらない)
格下げはしません。4つの軸をそのまま読みます。
無条件で下げる軸:なし/条件つきで下がる軸:なし
小売・卸・商社(低マージン高回転が常態)
この業種は、1つ売って残る利益が薄いかわりに、資産を何度も回して稼ぎます。売上高純利益率が2%でも、回転率が2回転あればROAは4%になります。なので「本業の力」は、回転率が実際に 1.2 回転以上あるときにかぎり「強い注意」まで上げず「気になる」で止めます(回転率も低いなら、それは業種特性ではなく単に稼げていない形なので格下げしません)。
無条件で下げる軸:なし/条件つきで下がる軸:本業の力
設備投資型(製造・インフラ・運輸・エネルギー)
装置や路線や工場を抱える業種では、総資産が大きくなるぶん回転率は構造的に低くなります(0.5回転前後も普通です)。なので「本業の力」は、売上高純利益率が 5% 以上あるときにかぎり「気になる」で止めます。
無条件で下げる軸:なし/条件つきで下がる軸:本業の力
不動産・リース(高レバレッジが常態)
この業種は、借入で物件や資産を持ち、その利回りと調達金利の差で稼ぐのが事業そのものです。財務レバレッジが3倍を超えていても、それ自体は異常ではありません。なので「レバレッジ」と「上がった理由」は「気になる」で止めます。ただし、格下げは「高レバレッジが安全になる」という意味ではありません——金利が上がる局面では、同じレバレッジが逆向きに効きます。
無条件で下げる軸:レバレッジ・上がった理由/条件つきで下がる軸:なし
金融(銀行・保険・証券)
銀行は預金を、保険は責任準備金を負債として抱えるので、財務レバレッジが10倍を超えるのが正常です。総資産回転率も「売上高」の意味も一般事業会社と違います。このツールの前提(レバレッジが高い=ROEを人工的に押し上げている)がそもそも当てはまらないので、総合判定は出しません。個別の数字は参考として表示します。
無条件で下げる軸:レバレッジ・本業の力・上がった理由・利益の中身/条件つきで下がる軸:なし
計算しないと決めていること
当期純利益が赤字のとき:ROEはマイナスになります。「高ROEの質」を問う対象ではないので、総合判定を出しません。
自己資本がマイナス(債務超過)のとき:ROE = 純利益 ÷ 自己資本 という比率そのものの意味が壊れます(赤字なのにROEがプラスに見えるなど)。判定しません。
前期が入っていないとき:ROEが何によって動いたかは出しません。総資産・自己資本も期末残高のまま使い、期中平均のふりをしません。
どちらかの期が赤字のとき:対数分解が成り立たないので、ROEの変化の要因分解はしません。
金融(銀行・保険・証券)のとき:預金や責任準備金を負債として抱えるため財務レバレッジが10倍を超えるのが正常で、 このツールの前提が当てはまりません。総合判定を出しません。
確率:「粉飾の確率」「株価下落の確率」は出しません。当たり外れを検証できない数字だからです。 出すのは「4つのうち何個に灯がついたか」と、その根拠の数字だけです。
このツールが見ていないこと
借入の中身と期限:同じ有利子負債でも、固定金利の長期社債と、1年以内に返す変動金利の短期借入では意味がまったく違います。 このツールは金額しか見ていません。
キャッシュの厚み:手元現金が潤沢な会社は、総資産が膨らんで回転率もROAも低く出ます。 ネットキャッシュ(現金 − 有利子負債)で見ると評価が変わることがあります。
のれん・無形資産:M&Aを重ねた会社は総資産にのれんが乗り、減損が出ると自己資本が一気に減ります。 このツールは減損の可能性を見ていません。
四半期の季節性:このツールは通期の数字を入れる前提です。四半期の純利益をそのまま入れると、ROEは年率換算されていない小さな値になります。
株価:PER・PBRは一切使っていません。ここで判定しているのは「値段」ではなく「ROEという指標の中身」だけです。